経済ニュース
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在日新華僑
東方通信社発行 学苑報
包丁職人 吉澤操 |
2010年 9月 08日(水曜日) 12:05 | |||
日本のグローバル化がすすむにつれて、世界的なブランドになった日本料理。そしてクローズアップされてきたのが日本の和包丁、その種類の多さ、切れ味ともに世界の料理人から注目されている。下町、亀戸水神の近くで包丁の製造・販売を手がける「吉實」、江戸末期からつづく老舗「正本総本店」の流れをくむ包丁職人・吉澤操が継承してきた屋号だ。 暖簾をくぐると、壁に掛けられた包丁の数々に目を奪われる。「ひと口に包丁といってもその種類は千差万別。出刃や柳刃はもちろん、タコ引、ウナギ割、ハモ切といった具合に、調理の仕方や内容によって刃の作りは異なってくる。素材の切り口をいかに美しくするかという日本人の美意識の賜物だ」と操は話す。そのため、使い方を誤れば、包丁はその機能を発揮することができない。「出刃は骨を切る前提で使うが、柳包丁は骨を切らないことを前提に使う。柳包丁の薄い刃で魚の骨や冷凍食材なんかを切ってしまったら、アッという間に刃先がダメになってしまう」と。 創業以来、鋼を中心に包丁を手がけてきた。しかも、最高品質の鋼のみを使っている。「包丁作りで大事なのは鋼の硬度と焼きの入れ具合だ。焼き入れが強いと長切れはするが脆くなってしまい、甘すぎると切れがもたなくなってしまう」と話す。 操のもとには、引っ切りなしに料理人たちからの依頼が舞い込んでくる。その大半がオーダーメイドで、ときには何度も図面をやりとりし、完成までに2カ月~3カ月を要することも。だが「お客さんとの緊張関係がいい動力源になる」という。 しかし、一方では大量消費・大量生産の流れのなかで、鋼の包丁に対するニーズが減少しつつある。いまや包丁といえば、「錆びない」ことをウリにしたステンレス製になってきている。だが、操は「包丁を使った後にキチンと手入れをすれば、鋼だって錆びることはない。当たり前のことをするだけで、鋼の包丁はステンレスよりも切れのモチがいいし、研ぐ度に本物の切れ味にすることができる」と力説する。実際、20年近く使い込んでから、最終的にペティナイフとして使っている常連客もいるという。 それにしても「包丁を研いだ経験を持っている人が減った」「包丁を研ぐのが難しいといって敬遠する人が増えた」と嘆く。というわけで、操は積極的に百貨店などでの催事会に参加して、鋼の包丁の良さについてPRしている。「片刃の包丁は切り口が鋭いが、両刃に比べて切ったときの安定感がない上に、刃先がどうしても脆くなる」とか「いい包丁は砥石の上で押さえると、キチンと押さえた場所だけが砥石に当たるようにできている。あとはそのまま砥石の上を滑らせれば、自然と押さえた箇所だけが研げる。何も難しいことはないよ」といったことをお客に説明する。 ところで、操が包丁職人の道に入ったのは18歳のときのこと。「親戚中が包丁職人だったから、当然のようにこの道にすすんだ」と。そう話す操の傍らには、修行中の息子、和の姿が。屋号「吉實」は操から和へ。その思いはたしかに継承されつつあるようだ。
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最終更新 2010年 9月 09日(木曜日) 16:44 |