近代語の語源から読み解く日中関係のススメ言語研究が日中交流の第一歩になる!!  印刷
2011年 4月 12日(火曜日) 14:01

関西大学外国語学部教授

沈国威

(しん・こくい チェン・グォウェイ) 1954年中国遼寧省に生まれる。1991年3月大阪大学文学研究科博士課程単位取得、満期退学。博士(文学)。神戸松蔭女子学院大学講師等を経て、関西大学外国語学部教授、文化交渉学教育研究拠点事業推進担当者  人民日報東京支局長

 

于青

(う・せい ユイ・チン)

1983年中国社会科学院大学院新聞学部卒業。86年人民日報国際部。88年に1度目の日本駐在を経験した後、98年には2度目の日本駐在。06年から3度目の日本駐在となり、現在に至る  沈国威氏は日本語と中国語の比較研究を行っている言葉のスペシャリスト。とくに語源の研究に熱心で、日本と中国の間でどのような言葉が往き来し、どのように変化を遂げてきたのかを研究しているという。では、そういった言語研究は日中交流にどのような役割をはたすのだろうか。さっそく、沈氏にそのあたりについて聞いてみた。  

 

于青・人民日報東京支局長 まずは来日の経緯についてお聞かせください。

沈国威・関西大学外国語学部教授 私は81年に北京外国語大学の大学院を修了し、中国北京語言学院の「中国日本語教師研修センター」(通称:大平学校)に配属されました。そしてセンターが終了した後、85年に日本留学の機会をいただき、大阪外国語大学、大阪大学に国費留学しました。専門は日本語教育学でした。その後、卒業時期が天安門事件のタイミングとも重なってしまい、恩師の紹介でしばらく日本の大学で働くことになったのです。気付けばそれから早や22年目です。

于 現在はどのような研究を行っているのですか。

沈 専門は日本語教育学ですので、外国語教授法や日本語と中国語の比較対照を中心に研究しています。また、近代の新漢語、訳語についても研究をしています。実は私たちが今日授業や新聞雑誌などで使っている言葉の多くは、19世紀以降に中国か日本でつくられた新しい言葉です。大規模な語彙交流によって、漢字文化圏の共有財産になったわけです。ですから、これらの言葉から東アジアの「近代」を辿ることができます。また、言葉のルーツからそれぞれの国の文化や歴史、思想を読み取ることだってできるのです。

于 たとえば、どのような言葉がありますか。

沈 今年は辛亥革命100周年にあたるので、「革命」という言葉について紹介してみましょう。「革命」という言葉は中国の古典語で、もともとは王朝の交替を意味していました。それを日本が「レボリューション」の訳語として使いはじめ、一般化したのです。その後、孫文を通じて中国に逆輸入されていきました。「民主」「自由」「共和」「経済」も同じ例です。そのほか、「哲学」のように、日本で新しくつくられてから中国や韓国に伝わった語もあります。また、最近中国でもっとも叫ばれている「拡大内需」は、実は日本語の「内需拡大」がルーツです。日常生活のレベルでも、たとえば「宅男(オタクのこと)」や「干物女(若いのに恋愛を放棄してしまっている女性のこと)」といった言葉は、すでに中国で市民権を得ているように思われます。ちなみに、日中韓とベトナムで使われている共通の言葉は、2000語以上になるといわれています。

于 とても興味深い話ですね。そのほか、言葉に関しておもしろい話はありませんか。

沈 100年前に日本で流行った言葉のひとつに「膨張」という語があります。日清戦争以後、日本の新聞などで盛んに使われ、韓国、中国にも広がったんですが、実は「膨脹」はもともと漢方の用語で、体の病的な情況を指すんです。それが日本では経済力や軍事力の拡大を表現する言葉に転用されたのです。最近、日本のある新聞に「中国膨脹」というコラムが登場しています。これにはチョット考えさせられます。なにせ、私たちは「日本膨脹」の結末を知っているんですから。

于 研究成果に関して、イベントやシンポジウムなどを開催する予定はありますか。

沈 3月19日に関西大学で「近代語の語源研究とその周辺」という国際シンポジウムを開催します。これはすでに11回目となるイベントで、毎年、日本、中国と韓国のいずれかで開催しています。

于 やはりこれからはグローバルな交流が必要になってきそうですね。

沈 その点では日本の大学も徐々にグローバル人材の育成に取り組むようになったと思います。留学の義務化を行う大学も増えましたしね。また、日中韓で進めている「キャンパス・アジア」構想が実現すれば、3カ国での単位互換や留学がスムーズに行えるようになるのではないでしょうか。こういった動きこそが、これからのアジア諸国にとっては何よりも大事なことなのだと思います。

 ちなみに、私が関係している文化交渉学教育研究拠点では、文科省のプログラムの一環として、英語のほかにアジアの言語をふたつ学習しなければならないことになっています。ただし悩みの種がひとつあります。最近は日本人の入学希望者がなかなかいないんです。実際、私の研究室のメンバーのほとんどが中国からの留学生です。とくに日本は今就職難に陥っているので、なかなか博士課程まで進もうという人がいないのかもしれませんが。

于 とはいえ、やはり言葉を通じて、自国にはない概念を理解していくことが、異文化コミュニケーションの第一歩になりそうですね。本日はありがとうございました。