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2011年 4月 12日(火曜日) 13:43

中小企業の"駆け込み寺"

インキュベーター活用のススメ 

    世界に誇る「メイド・イン・ジャパン」(日本製)の「高品質」を土台から支える中小企業。その技術力は世界一ともいわれるが、ここ最近はリーマンショックや円高、デフレなどの影響で厳しい状況にある。グロバール化する時代を生き抜くには、中小企業といえども「脱下請け」や「海外進出」にも取り組まなければいけない。が、中小企業の体力ではそこまで手がまわらないのが現状。そこで注目したいのが、地域で中小企業をサポートしている支援機関だ。ニッチな商品を全国展開、広報力を高めるにはどうすべきか、中小企業のポテンシャルを引き出す取り組みに迫ってみた。     中小企業を支援する体制は大きく3つにわけられる。ひとつは全国規模で東北、関東、九州などのブロック別に支援を行っている(独)中小企業基盤整備機構、もうひとつは県レベルで活動する中小企業支援センター、3つ目は各地域にある商工会や商工会議所などだ。「中小企業基盤整備機構は株式公開を視野に入れたベンチャーの支援や特許権の取得などに関する経営戦略など、高度な経営課題を支援しています。それに対し、各県の中小企業支援センターは中小企業の身近な相談窓口で、専門的で細かな悩みに対する幅広い支援を行っています」と話すのは中小企業庁経営支援課の中田富幸さん。

 ところで、中小企業庁が各支援機関に実施したアンケート調査「中小企業経営支援体制の現状」によれば、企業による相談件数が多いのは中小企業支援センターが圧倒的。中小企業基盤整備機構の1年間の相談件数(平成20年度)が1万7000件なのに対し、中小企業支援センターでは14万2000件と8倍以上の相談を受けている。まさに中小企業の駆け込み寺的な存在となっているのだ。そこで『コロンブス』編集部では各県の中小企業支援センターにアンケートを実施。効果的な支援方法や工夫している点、その成果などについて聞いてみた。

 

発掘とブラッシュアップ

 中小企業の相談を受けるといっても、ただ相談を待っていたのではつぎの展開がない。そこで必要になるのが発掘作業だ。(公財)ひろしま産業振興機構では、月に1回「ひろしまベンチャー交流サロン」を開催している。毎月第4水曜日、起業家や中小企業の経営者など3社が出席して新事業のプランを発表する。それに対して、コーディネート役の証券会社(野村證券や大和証券など)や商社(三井物産、三菱商事など)、ベンチャーキャピタル(日本アジア投資、東洋キャピタルなど)、銀行(広島銀行、もみじ銀行)など30数社が支援やアドバイスを行う。このサロンのポイントは「事前にすぐれたプランを発掘すること」だとマネージャーの藪田佐久治さんは話す。「新しいアイデアを持った起業家や経営者に声をかけ、発表会に向けてプランをブラッシュアップしていく」のだという。この10年間で350社がビジネスプランを発表した。

 広島市に本社を持つ�エビオスの中本友若社長も、このサロンを通じて事業を拡大した経営者のひとり。発表したプランは鳥の忌避剤。開発のキッカケはハトやカラスによるフン害だ。これらの鳥はマンションや店先、工場などさまざまな場所でフンをするので、そのフン害が問題になっていた。対策としては妨害ネットや駆除剤を使う方法があるが「鳥を殺してしまうのでなかなか普及しなかった」という。そこで中本社長は鳥の生態を徹底的に観察。鳥が嫌がることを研究し「鳥を殺さずに2度と寄り付かなくさせる」忌避剤を開発したのだ。これまでにない発想の商品にコーディネート企業も反応。大手商社を通じて日本全国、そして米国での販売も始まった。独自の視点を持った製品の発掘と販路を持った企業とのマッチングが、新事業の発掘・育成に結びついた好例だ。

 

広域連携で情報交換

 前述した鳥の忌避剤のように、全国展開できる可能性を持った商品を手がける中小企業は少なくない。が、一支援機関の情報発信能力には限界がある。そうした問題を解決しようと、愛知県、岐阜県、三重県、名古屋市の中小企業支援センターでは、定期的に「4支援機関合同連絡会議」を行っている。各センターのマネージャーが集まり、地元企業のプレゼンや情報交換を行うという。三重県産業支援センターの経営・IT支援コーディネータ水谷哲也さんは「最近、愛知県の企業が三重に進出するといった、県境をまたいで支援するケースが増えてきました。県単位の発想では活動の幅も限定されてしまいます。たがいの情報を持ち寄ることで地元企業の販路拡大にもつながります。これからは道州制を見すえた広域的な情報交換が必要」と指摘する。

 

川上から川下まで

プロデュース

 販路拡大といっても製造業の下請工場などの場合は「自分から売り込んでいくのが難しい」と話すのは、あきた企業活性化センターの技術支援グループリーダーの永田新さん。そこで同センターでは09年度より「ものづくりパワーアップ事業」に取り組んでいる。この支援策の最大の特徴は、県内中小製造業の持つ技術の発掘から新製品・新技術の開発、売り込みまでを一貫して支援することだ。民間から採用した経験豊富な2名の専門員(パワーアッププロデューサー)が技術の目利きをし、県内外の企業に対して、セールスプロモーションを行う。この「ものづくりパワーアップ事業」は、中小製造業の持つ技術を多方面に展開できる事業として注目されている。永田さんは「中小企業のポテンシャルを引き出すには単なるコーディネートではなく、プロデュースすることが大切」と指摘する。

 商談成立にいたった案件はこれまで10件ほど。「東北地方には自動車や電子部品産業などが集積している」ので、秋田には事業拡大の可能性が広がっているという。

 

ワークショップで

経営のツボを発見

 ところで、中小企業のなかには「頑張っているのになかなか売上げが伸びない」「商品には自信があるのに全然売れない」といったように、漠然とした悩みも多い。沖縄県産業振興公社ではそうした悩みに応える「課題解決集中支援事業」を行っている。各支援機関と連携して「マーケティング」「人材育成」など、その道の専門家がワークショップを行い、問題を解決していくという。

 沖縄の素材を使った化粧品を製造販売する「カミヤマ美研究販売」は一昨年の9月から翌年の2月にかけて、5回のワークショップを受講した。「会社を設立して9年目だったのですが、それまで、ほとんどひとりでやってきたので、自分の会社を客観的に見られなくなっていました。これから何をすればいいのか、方向性を見つけたいという思いで受講することにしました」と話すのは川端郁生社長。キッカケをつかんだのは5回目のワークショップだった。ワークショップのテーマは「組織体制と人材育成」。講師は開口一番「10年前にいたスタッフが何名残っていますか」と聞いてきたという。即答できなかった。ほとんどいなかったからだ。「自分のことに精一杯で会社を担うスタッフを育ててこなかったことに気付かされました。でも、そのおかげでパッと目の前が明るくなった気がしました」と。

 川端さんは受講後、すぐに人材募集をかけた。評価基準を決め書類選考から厳しく審査した。面接はそれまでは自分ひとりで行っていたが、総務・営業・企画担当も同席させた。「それぞれの立場の意見を聞くことで、これまでとは違う見方ができるようになった」そうだ。このときに採用した従業員はいま「会社の力になっている」という。

 創業、資金繰り、商品開発に人材育成など、多様な中小企業の問題に応えてくれる中小企業支援センター。困ったときは近くのセンターに相談してみてはいかがだろうか。思わぬ効果が得られるかもしれない。   

 

インキュベーション・マネジャーに聞いた

起業家の育成・支援に必要なことは!? 

   起業家の発掘と起業家への支援などを目的に各地で行われているビジネスコンテスト。藤沢市産業振興財団(神奈川県藤沢市)と湘南新産業創出コンソーシアムが毎年開催している「湘南ビジネスコンテスト」は平成13年から続くビジネスコンテストの先駆け的存在。受賞者の育成に関わってきたインキュベーション・マネジャーの秋本英一さんは「ビジネスコンテストに必要なのは入口と出口、そして話題性」といい切る。「話題性とはコンテスト上位入賞者をメディアに取り上げてもらうこと。それが認知度を上げ、信用にも繋がる。また入口とは審査段階で、本気で起業家を育てたいと思っている投資家を集めること。起業家の多くは資金ショートでダメになってしまう場合があるからです。そして出口とは販路のこと。私は受賞した起業家には大手百貨店やスーパーのバイヤーなどを紹介するようにしています。そこでひとつでも取引が成立すればそれが実績になる。信用できる会社と取引があれば、それを信じて買ってくれる会社も現れます。そうすればおのずと事業化にも加速がついていくはずです」と。事実、湘南ビジネスコンテストではビジネスプランの目利きができる専門家が審査するのが特徴。これまでに数多くの起業家を輩出している。

 たしかに起業家にとって資金に関する悩みは尽きない。静岡県の創業支援施設SOHOしずおかでは「金融なんでも相談」が起業家に好評だという。起業家の相談を受けるのは静岡銀行出身のインキュベーション・マネジャー坂野友紀さん。融資業務を10年間、1000社と面接してきた経験を生かして、借り入れ方式のアドバイスや金融機関の紹介を行っている。「事業計画や自己資金の状況などを聞いたうえでアドバイスを行います。相談者は食品関係からクリエイターまで幅広い。なかには金融機関に融資を断られて泣きついてくる人もいます。いかに事業を継続できるかを考えてアドバイスしています」と。これまでにコーディネートした融資額は1億5000万円。09年4月に古着・雑貨を扱う「オールドキャンパス」をオープンさせた浅野剛史氏も「金融なんでも相談」を活用したひとり。「店を開くにあたり、事業計画の実現性や借入方法について相談ができてとても助かりました」と話す。起業家支援には「かゆいところに手の届く」サポートをしてくれるインキュベーション・マネジャーの存在が不可欠だ。