静岡県伊豆の国市で稼働中の市民共同開発所
福島第一原発事故に端を発した電力問題が依然として尾を引いているが、一方で太陽光、水力、風力、地熱といった再生可能エネルギーに対する関心が急速に高まっている。この7月には再生可能エネルギーの全量買取制度がスタートしたこともあって、今後はさらに再生可能エネルギーの導入・普及がすすんでいきそうだ。が、一方で全量買取制度によって、電気料金が値上がりするという見方もある。では、地域はどのようにして再生可能エネルギーを活用すればいいのか。再生可能エネルギーを取り巻く状況や技術・製品、まちづくりをリポートし、「地産地消エネルギー」の可能性、潜在能力を検証する。
今年7月から再生エネルギーの固定価格買取制度が施行された。これは再生可能エネルギーで発電した電力を電力会社が買い取る制度のことで、買い取り費用は電気料金に上乗せされる仕組みになっている。太陽光発電の場合、10万㌔㍗以上の発電能力を持つ設備から発電された電力が全量買い取られるという。価格は1㌔㍗時当たり42円、期間は最長20年に設定されている。
現段階での成果を見てみると、認定発電所の出力は130万㌔㍗に上り、制度開始2カ月で原発1基分相当を確保。また、メガソーラーなどの非住宅用太陽光は72・5万㌔㍗と、年度末までの導入予測だった50万㌔㍗を上回っていることがわかる。さらに、非住宅用・住宅用を合わせた太陽光はすでに導入されたいた分も含めると、今年3月末に480万㌔㍗だったのが8月末には583万㌔㍗に拡大しており、来年3月末には680万㌔㍗になる見通しだという。そのほか、住宅用太陽光は30・6万㌔㍗、風力26・2万㌔㍗、バイオマス0・6万㌔㍗、中小水力0・1万㌔㍗が認定を受けている。
この数値を見ると、再生エネルギーがきわめて順調に推移しているように思えるが、その分だけリスクがあることも知っておきたい。再生可能エネルギーの普及がすすんでいるといわれる欧州では、ドイツが00年に再生可能エネルギーの全量買取制度「フィードインタリフ(FIT)」を導入し、その後、スペイン、イタリアなどでも展開されている。
ところが、売電された電力は電力会社が買い取るため、需給バランスが崩れると電力会社の財務が圧迫され、結果的に電力料金が値上がってしまう。現にEUでは買取価格が高く設定され、発電事業者の参入が相次いだことで、政府の予想以上に電力料金が値上がってしまった。EU統計資料によると、FITにより再生可能エネルギーの導入がすすんだデンマークの電気料金は11年現在、年間3500㌔㍗時の標準使用量で1㌔㍗時当たり28.64ユーロセント(約3150円)、ドイツでは同25.88ユーロセント(約2847円)になっている。家庭向けではイタリアがもっとも高く25.40ユーロセント(約2794円)、デンマーク同24.81ユーロセント(約2729円)、ドイツ同24.33ユーロセント(約2676円)と、いずれも日本より高くなっている。
イタリアでは1㌔㍗時当たりの買取負担金が09年に比べ、11年には6倍に達するとも報じられ、政府は買取価格の引き下げを決め、大規模太陽光発電設備からの買取総額に上限値が定められることになった。また、ドイツの環境省は再生可能エネルギー関連産業で、20年には40万人の雇用増を見込んでいたが、電力価格上昇にともなって失われる雇用も大きく、雇用の純増は結局、5万6000人にとどまる見通しになった。
電力の地産地消が急務に
日本でも全量買取制度が導入された以上、近い将来、欧州のような事態が到来するのは間違いない。であれば、電力が値上がった分だけ、各地域が電力をつくり、それを売ることで、値上がり分を吸収するようなモデルをつくる必要が生じる。まさに電力の地産地消を目指さなければならないのだ。
ということで注目したいのが、千葉大学法経学部の倉坂秀史教授が05年から環境エネルギー制作研究所(東京都中野区、所長・飯田哲也)と共同研究している「永続地帯」というテーマだ。これは全国の市町村ごとに、再生可能エネルギーの供給量と需要量を推計し、対比させるもので、需要量の100㌫以上を再生可能エネルギーでまかなえるところを「エネルギー永続地帯」としている。
最新の調査によると、エネルギー永続地帯は全国で合計52カ所あり、そのほとんどがいわゆる地方の山間地などだ。つまり、自然豊かな地方のほうが再生可能エネルギーで持続可能な社会をつくれる可能性が高いということだ。『永続地帯2011 年版報告書』に掲載されている「100%電力永続地帯市町村一覧」(2010 年3月)を掲載するので、どういった地域が電力の地産地消に成功しているかをチェックしてみるといいだろう。
地域に合った発電スタイルを選択
ひと口に再生可能エネルギーといっても、さまざまなタイプがある。地域はそのなかからもっとも効率的な発電スタイルを模索し、地産地消を目指さなければならない。そこで、つぎにそれぞれの発電形式の特色をチェックしてみたい。
再生可能エネルギーといえば、その筆頭にあげられるのが太陽光発電だ。大手企業の参入やメガソーラー計画などで、きわめて大規模な発電量を担うと考えられている。だが、発電単価やパネルの価格が高い、気象条件や日照時間に発電量が左右されてしまうといった問題も多い。また、蓄電池の発達や送電網の見直しなどが必要といった指摘もなされている。
では、風力発電はどのような状況だろうか。実は風力発電は太陽光発電よりも建設にかかるコストが安く、発電効率が高くなる可能性がある。北海道や東北を中心に導入がすすんでおり、陸上風力発電の技術はもはや確立されている。
だが、太陽光同様に気象条件の影響が大きく、どうしても発電量が〝風まかせ〟になる上に、電力需要が高まる夏に風が弱いといった弱点もある。また、風車による騒音問題や景観問題も指摘されており、建設時に近隣住民のコンセンサスを得にくいといった問題もある。
そこで近年、注目度を高めているのが洋上での風力発電だ。経済産業省が10年度に発表した資料によると、そのポテンシャルは離岸距離や水深の制約条件等を加味すると16億㌔㍗と膨大だ。台風や強風などの懸念材料もあるが、海上に浮かせる浮体式や風向きによって風車の向きを変えられる技術開発もすすんでいるので、今後の可能性は大きい。
山間部や田園地域が多い日本にとっては、水力発電の存在も欠かせない。そもそも、昭和の中頃までは大型ダムを使った水力発電が日本のエネルギー源の主流だったが、巨大ダムは環境破壊にもつながるので現実的ではない。
というわけで、注目したいのが発電規模5万㌔㍗以下の中小水力発電だ。もちろん、設置可能な場所はかぎらてくるが、長期間にわたって安定的な発電が可能だし、場所を選べば稼働率は90㌫近くになることもあるという。すでに全国で500カ所近くの小水力発電施設が稼働しているが、各自治体がこの中小水力発電に力を入れれば、さらに電力を安定供給することができるはずだ。
エコブームのなかで注目度が高まったのがバイオマス発電だ。建築廃材や木質ペレットなどを燃やして発電したり、生ゴミや家畜などのし尿を発酵させたバイオガスを使って発電するというものだ。もともと、バイオマス発電は燃料となる木材チップが高価で安定調達が難しく、普及が困難とされていた。だが、震災後は家屋倒壊などで生じた被災地の廃木材をチップに加工し、燃料として活用するという動きが出ており、ヒョッとしたら新しい発電分野として伸びてくるかもしれない。また、農村部に関しては循環型農業の一環として、このバイオマス発電を取り入れる事例が増えているようだ。
火山列島・日本の特性を生かした方法といえば、地熱発電があげられる。これは地下に貯えられた天然熱水を取り出し、蒸気と熱水に分け、熱水は地下に戻し、蒸気だけをタービンの動力にする蒸気発電方式だ。そのほかに、熱水を利用する「バイナリーサイクル発電」という方式もある。また、熱水・蒸気資源がなくても発電できる「高温岩体発電」、マグマだまり近くの高熱を利用する「マグマ発電」などの研究もすすんでおり、研究成果が出てくれば、日本列島の至るところで地熱発電ができるようになるかもしれない。
地熱発電のいいところは、ナントいっても気象条件に左右されないため、理論的埋蔵量が設備量にして約3300万㌔㍗、地形や法規制などの制約条件が考慮された導入ポテンシャルは約1420万㌔㍗とも見積もられていることだ。ただし、火山地帯が主に国立公園に位置し、土地利用に規制があること、すでに熱水を利用している温泉地などとの調整が難航しているといった課題がある。現在、国内では合計18か所の発電所が稼働しているが、さらなる増加に期待したいところだ。
では、これらの発電スタイルがどのように地域のなかで活用されているのか、太陽光、水力、風力、地熱の4つに関してリポートしたい。
【太陽光】
“発電所長”のネットワーク
市民ファンド事業にも注力!!
(NPO法人太陽光発電所ネットワーク)
2012年現在、太陽光発電設備を導入している家庭は、全国で合計100万戸以上といわれている。あまり知られていないが、住宅用発電設備の普及という点では日本が設置数・規模ともに世界一である。NPO法人太陽光発電所ネットワーク(PV―NET)は、こうした自宅などに発電機を設置している個人、自治体などが「太陽光発電所長」として参加する国内最大の組織。会員数は約2600人に上る。
その主な活動は全国の個人住宅で発電された電力を「グリーン電力」として認証する「PV―Green事業」。証書を購入した者は自分で発電していなくても記載相当の自然エネルギーを利用しているとみなされ、自然エネルギーの普及拡大に貢献できる仕組みになっている。
昨年度からは新たに市民から出資を募り、地産地消の太陽光発電施設を共同で建設するファンド事業も開始。出資金額は1口10万円から。すでに静岡では第1号設備が稼働中だ。
七ヶ用水発電所
【水力】
マイクロ発電のトータルプランナー
国内事業強化に加え、海外でも事業展開
(シーベルインターナショナル(株))
中小河川、用水路などを活用して行うマイクロ水力発電用機器の設計・製造、またメンテナンスや運営指導なども一貫して行うシーベルインターナショナル(株)。日本ではまだ数少ないこの分野における民間企業だ。
主力製品は落差のない水路でも設置可能な「ストリーム」。水車・発電機部と発電制御盤を基本構成とした垂直二軸型水車構造を持ち、流水エネルギーを高効率で水車に作用させて発電する。基本パッケージとなる発電量は0・4㌔㍗から44㌔㍗。上下水道や工場排水路などでも導入できるとあって、自治体に加え一般企業からの問い合わせも急増中だという。
ストリームの設置実績はこれまで国内外合わせ20カ所以上、国内では7カ所で稼働中。小規模分散型の発電設備は地域利用に最適であるとともに、発展途上国の農村地域などのインフラ構築にも貢献することから、同社では今後、海外展開も加速していく方針だという。
市民風車おおま
【風力】
余剰地が多い地方に有利
稼働率しだいでは大きな利益も
(一般社団法人市民風力発電おおま)
青森・八戸市の有志らの主導で建てられた風車が好調だ。文字通り〝風まかせ〟の風力発電は設備利用率を上げることが最大のポイントとなるが、地域や日によってバラつきがあり、全国平均では年間を通して20㌫弱といったところ。だが、場所を選べば効果は絶大、現にこちらの風車は06年の稼働以来、約30㌫という高いパフォーマンスを維持している。
この風車はNPO法人グリーンシティが中心となり、地域住民からの出資や独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助金などを得て、大間市に建設したもの。現在はグリーンシティを母体に一般社団法人となった市民風力発電おおまが運営管理している。発電した電気はすべて電力会社に売電し、得られた利益は地域振興に役立てていく予定だそうだ。
風車建設には用地の確保や騒音問題といったハードルがあって都市部では不向きだが、地方には多くの適地が存在する。買取価格改定で採算性も向上するので、今後の展開に注目だ。
【地熱】
世界有数のポテンシャル
エネルギーの4分の1まで自活可能に
(大和紡観光(株)/霧島国際ホテル)
火山列島・日本の地熱発電の資源量はインドネシア、米国についで世界第3位、発電量にして2000万㌔㍗以上になるという。だが、地熱資源が豊富な地域の多くは国立・国定公園に指定されているか、温泉地に隣接し、法律の問題や温泉枯渇の懸念などで開発がすすめられないのが現状だ。
とはいえ、もちろん成功事例もある。鹿児島・霧島市の霧島国際ホテル(大和紡観光(株))では84年に敷地内に地熱発電機を設置、ホテルでの年間使用電力の4分の1までまかなう仕組みを確立している。
成功の要因は発電のために井戸を掘ることなく、140℃の蒸気をそのまま活用できるという恵まれた条件が揃っていたこと。発電機の設置に先立ち、蒸気熱を利用した熱交換器の導入に成功していた経験が後押ししたことなどがあげられる。最近では地熱発電の技術も進歩しているため、同ホテルには行政や企業からの視察が絶えないという。
春欄の里寄り道パーキングに設置された充電スタンド
自体地でも地産地消エネルギーを推進
こうしたさまざまな発電スタイルやシステムが誕生するなか、日本各地の自治体でも地産地消エネルギーを推進する動きが出てきている。たとえば、石川県ではエネルギー政策に関連する複数の部局を総合的に調整し、事業を円滑に進める部署として、今年度、企画振興部内に「エネルギー対策室」を新設した。
石川県ではこれまで志賀町(昨年3月運転開始)と珠洲市(本年11月運転開始予定)で、北陸電力によるメガソーラー(大規模太陽光発電所)の設置をすすめてきたが、7月から再生可能エネルギーの固定価格買取制度がはじまり、民間事業者によるメガソーラー導入に向けた動きも出てきている。そこで、県は対策室を中心に石川県の風土や気候にあった再生可能エネルギーの導入促進に取り組んでいるという。
そのひとつが小水力発電だ。今のところ県内での導入事例は少ないが、農業用水や砂防堰堤での活用に向けた可能性調査を行い、今後の導入につなげる方針だそうだ。現在、県内の農業用水利用の小水力発電は、上郷発電所(能美市)、七ヶ用水発電所(川北町)、100㌔㍗未満の発電を行う富樫用水マイクロ水力発電所(野々市市)の3カ所が稼動中だが、今年度中に農業用水路などについて発電規模、年間発電量等の調査を行い、今後、導入可能な対象施設を選定していくという。
他方、再生可能エネルギーを活用した実践モデルとして「春蘭の里」(能登町)での取り組みがあげられる。ここでは7月から県の支援による小水力発電の取り組みがはじまっており、民宿前を流れる小さな水路に発電装置を設置した。この装置は1㌔㍗未満のきわめて小規模な発電を行う「ピコ水力発電」と呼ばれるもので、発電した電力は看板や案内標識の照明に活用されるという。さらに、付近にある交流施設「こぶし」前の河川で基礎調査を行い、来年度以降、数㌔㍗級の発電装置の設置につなげていくという。
そのほか、春蘭の里では「寄り道パーキング」に電気(EV)・プラグインハイブリッド(PHV)自動車の充電スタンドを設けている。充電スタンドの電気は風力発電から供給されるので、まさに地産地消エネルギーの先進例といえそうだ。なお、充電スタンドには高速データ通信が可能な公衆無線LANが装備されており、充電しながら能登の観光情報が入手できるなど、スマートフォン向けの専用アプリを利用することができる。この「能登スマート・ドライブ・プロジェクト」は春蘭の里以外でも展開されており、能登空港や羽咋市以北4市4町の道の駅、観光施設などに21基が設置されているという。
県では「こうした環境に優しいエネルギーを活用する取り組みを、いわばショーケースとして、多くの方に見ていただき、エネルギーの地産地消の意識醸成と普及啓発をはかりたい」としている。
「エネルギー特区」の設立を望む
停滞がつづいている地域経済にとって、こうしたムーブメントは活性化の契機になる可能性がある。政府も日本再活性化の大きな柱にひとつに再生可能エネルギー発電事業を据え、海外からの輸入資源に依存し切っているエネルギー政策の抜本的な見直しをはかっている。また、各地の地域金融機関は太陽光発電など再生可能エネルギー事業を手掛ける企業や自治体への融資を強化している。
だが、すでに述べてきたように、地産地消エネルギーを実現するには、どの発電スタイルを選択するにしても、いくつかの課題をクリアする必要がある。ならば、政府は一刻も早く水利権問題(水力)や国有林利用(地熱)などの法規制を見直す必要があるのではないだろうか。地産地消エネルギーを拡大するためには、各省庁にまたがる各種の法規制を一時的に棚上げにして、民間サイドの創意工夫で積極的な試行が行なえるような「エネルギー特区」を準備するなどの配慮が必要だろう。
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