日本は生き抜くための 「耐震力」を持て!! 印刷
2011年 5月 24日(火曜日) 13:28

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震災後の復興にともない、各分野でさまざまな課題が浮上してきている。そこで、今号では余震、就業問題、エネルギー問題、風評被害といったテーマごとに復興の課題を分析。それぞれの現状をレポートするとともに、いくつかの問題点、解決策をまとめてみた。 

震災による景気の急速な悪化

日銀は「経済・物価情勢の展望」を策定。大災の影響を踏まえて11年度のGDP成長率の予測を1月時点の1・6精から0・6精に下方修正した。震災にともなう部品調達難や電力不足で、11年度前半は経済活動が停滞すると指摘。秋以降は部品調達網や電力供給が改善に向かい、生産や輸出が増加に転じるとした。12年度の実質成長率は、復興需要が見込めるとして、1月時点の2・0精から2・9精に引き上げた。

 

いっぽう、経産省の3月の鉱工業生産指数は前月に比べ15・3精低下した。前月を下回るのは5カ月ぶり。下げ幅は、リーマン・ショックの影響で生産が落ち込んだ09年2月の8・6精を大きく上回り過去最大。東日本大震災の影響で、自動車や電機をはじめ全業種で減産を余儀なくされた。

 

経産省は基調判断を「生産は急激に低下」に下方修正。リーマン・ショック時の08年11月~09年2月の「急速に低下」より強い、初めての表現を採用した。下方修正は昨年9月以来6カ月ぶり。

 

また、3月の全国百貨店売上高は4624億円で、前年同月比14・7精減と現行の統計を取り始めた1965年1月以降、2番目に大きい減少率を記録した。全国的な自粛ムードと計画停電の影響で、臨時休業や営業時間の短縮を余儀なくされた店が相次いだためだ。おかげで、3月の売上高の落ち込みは、リーマン・ショック後の消費不況の影響が強く表れた09年3月(13・1精減)を上回った。

 

消費マインドがイッ気に冷え込んだのだ。内閣府が4月19日に発表した3月の消費動向調査によれば、消費者態度指数(2人以上の世帯、季節調整値)は前月比2・6ポイント減の38・6となった。月次調査を始めた04年4月以降、最大の落ち込みとなった。これもやはり震災の影響ではないかとマスコミ各紙は伝えている。

 

では、この冷え込んだマーケットを立て直す秘策はないものか。そこで思いつくのは家庭内に眠っている蕫タンス預金﨟、1400兆円の活用だ。主に 蕫団塊の世代﨟がその持ち主らしいが、この際、この金を吐き出してもらえる消費マインドを育成していくべきではないか。たとえば蕫救国﨟のために無記名、無利子の「復興債」(5年、10年モノ)を買ってもらい、それを担保にシルバー起業や住宅購入(二世代住宅ローン)、動産担保として使えるようにしたらどうか。

 

また、企業の内部留保は250兆円にも達するといわれている。この金も吐き出してもらうのだ。被災して困っている企業と業務提携したり、出資のために使ってもらうとか、場合によってはM&Aのために使ってもらうというのはどうか。それにしても、そうした企業活動が業界再編をもたらし、デフレと震災で弱りきった業界の体質改善につながっていくと思われるのだが。

 

当面は企業間、地域間で助け合うという互助システムネットワークであるとか被災相談室のようなものを早急に開設するべきではないか。コーディネーター役には各地の地場産業の振興センターや商工会議所(商工会)、経産省や農水省の出先機関、銀行、信金、メディアといったところがふさわしい。総力をあげて連携チームを立ち上げていくべきではないか。

 

被災企業が自社の努力や人づてに協力をお願いして歩くのはもう限界だ。なんとか組織的なサポートがほしい。このままだと東北からモノづくり(産業)の灯が消えていく可能性も。なんとかしなくてはならない。懸念されるのは産業の空洞化とこれを機にアジアにシフトするグローバル化だ。気を付けなければならない。

 


日本経済の危機に拍車がかかる

 

長引くデフレ、そして震災、原発、風評被害(含、自粛ムード)にあって日本経済はかつてない低迷、先行きの見えない状況になってきている。はやくも経済成長率は0精の後半といわれ震災前の4・6精からの大幅ダウンとなる。成長率1精減は30万人の失業者を生み出すといわれている。

 

しかも三菱UFJ証券インターナショナルによると、復興費用は阪神淡路大震災の約10兆円(当時のGDPの2精相当)をはるかにしのぐ25兆円(昨年のGDPの5精相当、弊社の試算では45兆円前後とみている。事実、それを裏付けるように政府は国債発行目標を44兆円に設定している)ともいわれ、その試算額も原発問題によって大きく変わってきている。

 

保険損失額も8000億円強といわれ、すでにソルベンシー(支払能力)に限界がきたともいわれている。

 

失われた資本ストックは10精にも及ぶという。地震で損失した資本ストックの再構築という課題も浮上してきた。そのために海外資産や外国債の売却ということも視野に入れはじめているようだ。となれば、まさに日本経済は深刻な事態、危機に。大胆な産業構造の転換が必要となってくる。今、議論すべきはそのあたりではないか。

 

ちなみに世界の主要機関であるアジア開発銀行やIMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)も日本の経済成長率を0・8精~1・5精前後と試算している。OECD(経済協力開発機構)はさらに「日本の消費税率が低すぎる」と指摘。そういった指摘もあってか、日本国内でも増税か新税(復興税)か、はたまた国債発行かと揺れている。たとえば増税でいえば消費税や法人税がその対象になっているようだ。が、はたしてそれでいいのか。それしか手段はないのか。

 

ところで、いったいこの復旧、復興にどれほどの資金がいるのだろうか。おおよそ、当面20兆円~30兆円と見込まれている。この資金を国債や増税でまかなうというのはいかがなものか。

 

いずれは蕫復興特需﨟によって経済が上向きになるはず、それまでの辛抱ではないか。

 

むしろ、国債や増税に頼るのではなく、財源をやりくりしたり、融通しあって復旧、復興にあてるべきではないか。しかし、社会保障関連には手をつけるべきではない。なぜならば阪神・淡路大震災時には15精前後だった高齢化率が現在では25精にも達しており、社会不安を引き起こしかねないからだ。余剰金といわれている国債整理基金の10兆円、労働保険特別会計の6・5兆円の活用というのもある。探せば蕫埋蔵金﨟はいくらでもあるのだ。

 

すでに日本の国債の格付けはトリプルAからマイナスAとなり、中国、スペイン並みとなっている。アメリカ経済が減速している今日、ただでさえ日本はデフレ環境にあり、「金がないから」という理由で国債を発行するとマーケットはきわめてナーバスになると思われる。これ以上、経済が悪化することは許されないのだ。

 

もちろん国際世論の動向にも気を使うべきであることはいうまでもない。慎重にして賢明なる判断が求められる。

 

重ねていいたい。安易に増税やたとえ期間限定であっても「所得税の上積み」といったことに知恵を使うべきではない、と。国民の負担が増すばかりだ。すでに日本の借金は日本のGDPの2・7倍、900兆円を超え、国民一人当たりの負担額は700万円とすでに蕫借金大国﨟になっているのだ。

 

ガレキ撤去を雇用の受け皿に

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復旧費として第1次補正予算が4兆円と決まった。この資金で雇用を吸収し、まずはガレキの仕分けや撤去にあてるべきではないか。

 

推計では2000万禔ともその倍の4000万禔ともいわれているがガレキの山、これをどうするかだ。燃えるゴミ、燃えないゴミ、燃やしてはいけない危険物や化学物質などに分別する仕事を誰にお願いするかだ。自動車にいたっては解体、スクラップにするという仕事もある。

 

政府は持ち主の見つからない流失物(ガレキ類)は3カ月以内の行政処分を認め、処理にあたっては地元民の力を借りたい、としている。また、被災地には「仮置きのスペースがないため、200を超える団体からガレキを受け入れる(埋め立て、焼却。中間処理など)旨の申し入れがあった」とか。この際、ガレキの撤去にあたっては、被災者を最優先して雇用してほしいものだ。農民や漁師の方が失業保険に入っているとは到底思えない。とにかく現金収入の道がないのだ。だから、たとえば日当1万円であったとしても、被災者にとっては救い、生きる力にもなるはずだ。

 

もちろん、「これからのまちづくりをともにやっていこう」という連帯感を育む意からも、この清掃作業には価値があると思う。

 

さて、津波の現場には家族の大切な想い出やアルバム、貴重品がガレキの山に埋まっており、カンタンにユンボやブルドーザーでイッ気に片付けるというわけにはいかない。まずはそれらをひとつひとつ丁ねいに拾い出し、仕分けしていく手作業が必要なのだ。捜索にあたっている警察官や自衛隊員がやっているようにだ。

 

とすれば、当然、大量の人員が必要になる。そうした、軽作業なら高齢者、女性にもできるはず。そして、ある程度仕分けがすんだら若者や中高年に本格的な撤去作業をしてもらうのだ。

 

ただし、作業にあたってはくれぐれもPCBやアスベスト、粉じん、フロンガスといった有害物質の対策を講じておくことだ。くれぐれも最低限の防塵マスクだけは着用してほしい。これからは乾燥する時期でもあり、二次災害を引き起こす可能性は大なのだ。

 

さらに、災害から40日余、感染症にも気をつけることだ。ヘドロ化した被災地に入る際は、破傷風などにかかる可能性もあり、ゴム長グツ、安全グツ、ゴム手袋の着用はゼッタイ必需だ。とまれ、この震災では7万人とも10万人ともいわれる失業者が出るといわれている。このガレキ処理という失業対策には意味があると思えるのだが。

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働き手の流出に注意

 

ただ、こうして失業対策はそれなりに成果を収めたとしても、働き手の流出は避けがたいのではと懸念する声も。

 

統計によれば、震災後にはきまって高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)が進むという。直近の例として新潟県旧山古志村では00年の34・6精が09年には41・6精になった。

 

アメリカのニューオリンズ市でも同様に「ハリケーン・カトリーナ」が去った後、全人口の45万人がわずか1週間で他地域に流出、避難し、それから5年経った10年になっても人口は災害前の7割にとどまっているという。この人口流動が市内の労働人口に大幅な変化をもたらしているという。

 

山古志村しかり、被災後、一家の働き手が職を求めて他地域に転出してしまい、勤労者がいなくなり、一挙に高齢化が進んでしまうのだ。おそらく、このたびの震災もそうなるのではないか、と懸念されている。

 

しかも被災地、東北はそもそもが生産年齢人口(15歳~64歳)の減少率が高く、05年から50年では54・9精となり、人口も05年の1207万人が、50年には727万人に減ると、10年度にまとめた国交省の予測リポート「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」では分析し、減少率は39・8精で全国平均の25・5精を上回るとしている。

 

ついで、被災した船についてだが、岩手、宮城、福島の3県で2万9000隻あった漁船の9割が、陸上に打ち上げられたり、船腹を見せて浮かんでいたりという状況にある。そして、そのほとんどが使いものにならないという。

 

農地にしても宮城県など6県で2万3600禛が冠水(ドロ水、海水)、流失したという。今後、ガレキやガラス片の撤去、塩分の除去、液状化した地面の復元、壊された農業用水路やパイプラインの修復などが急務に。

 

政府はこういった惨状にあって、船の新造、修理にあたっては国と都道府県で3分の2を補助するという。農地にしても全額補助という方針を打ち出した。

 

それでも家族も家財も失った高齢被災者が新しく船を買って漁師になろうとか、農機具を新調して農家をつづけようと思うだろうか。おそらくNOである。とすれば減船した船を買い上げたりリースしたり、国が買って貸与するというのはどうか。農地にしても同様の仕組みや手当てが必要ではないか。

 

この際、イッ気に規制緩和とか特区導入といった大胆な決断がほしい。被災地は疲れきっているのだ。農業については条件付きではあるが、すでに株式会社の参入を認めており、漁業権においてもそうすべきではないか。

 

場合によっては、漁業権や農業権の譲渡、売買を認めるというのはどうか。後継者を養成していくためだでもある。これがUターンやⅠターン人材を受け入れるキッカケになることもあるのではないか。

 

漁船の9割が使用不能

 

さて、漁業においてではあるが、漁協が船や資材を購入して組織的に漁や養殖をする案が浮上しているほか、宮城県は漁業の「国有化」も視野に入れ対応を模索中だそうだ。

 

調査で被害が確認されたのは計約1万8600隻で、被害金額は約1300億円。ただ、岩手県などでは調査が完了せず、今後の見通しを含めると使用不能の漁船は2万5700隻以上とみられる。

 

しかし、漁船は車のように流れ作業で作るものではない。木造家屋を新築するように、職人がFRP(強化プラスチック)で船を手造りする。このため、家屋の見積で坪何十万円と計算するように、禔当たりン万円と見積もるそうだ。新造船では禔当たり約100万円前後と見られる。3禔の船だと300万円となるが、これに、高価なエンジンや魚探など電装品を加えると合計で800万円位になる。

 

底引きだと5~10禔クラスの船になるので、船体だけでも500万円から1000万円となる。それに漁具、漁網一式となるととんでもない金額になる。仮にカツオ一本釣りと巻き網漁を1隻で行えるハイブリッド型遠洋漁船になると建造費は20数億円にハネ上がるといわれている。高齢化が進んでいる東北地域で、個人の水産事業者がたとえ3禔クラスの漁船であろうと新造することはほとんど困難だと思われる。

 

早急に国の激甚災害法の適用措置(第11条)を適用してサポートしてほしいものだ。が、たとえ共同利用小型漁船を建造する費用の3分の2を国などが負担してくれたとしても、被災漁民には担保もなく、おそらくムリではないか。だからこそ「復興震災特区」を立ち上げ、外部からの投資を呼び込み、会社組織やLLP(有限責任事業組合/アメリカではこの組織方式によって起業する例が多い)によって船舶の共同利用をはかってみるというのはどうか。そして水産事業者の雇用を促進する必要がある。

 

三陸沖は北から寒流の千島海流(親潮)、南から暖流の日本海流(黒潮)、さらに津軽海峡から対馬海流の分岐流である津島暖流が交錯する複雑な潮境を形成している。

 

このため、マグロ、カツオ、サバ、アジ、イワシなどの暖流系の魚に加えて、サケ、マス、サンマ、タラなどの寒流系の魚も密集する好漁場。海岸は一般的に岸からすぐ深くなり、大陸棚は狭いものの底質は岩礁や砂礫質が多く、アワビ、ワカメ、コンブ、ウニ、ナマコといった養殖も盛ん。アイスランド、イギリス、ノルウェー近海、アメリカ、カナダ東海岸と並び、日本が世界に誇るべき三大漁場のひとつだ。

 

が、このままだとこの漁場を放棄するなんていう事態になりかねないのだ。

 

東日本被災地復興のための提言

 

復興庁構想は民主党の特別立法チームが3月末にまとめたものだ。「復興本部の下に事務局として復興庁を置く」とした。公明党など野党の一部も賛成していたが、政府・民主党内で「屋上屋を架すだけであまり意味がない」「各省から権限を奪うより、それぞれの省が責任を持つべきだ」といった意見が強まり、法案提出が見送られた。

 

では、被災者や風評被害に泣く農民・漁民・工場主はどうしたらいいのだろうか。管民主党政権の優柔不断さが目に付く。今後の復興策を現政権で構築できるのかと不安になる。こうした国民の危惧は、最近の世論調査や地方選の結果からも読み取れる。

 

われわれは早期に「復興庁」を立ち上げ、省庁の枠組みを超えた組織横断的なマスタープラン作成とその実行組織をつくることを提案する。平時とは異なり、大胆な決断力と実行力が求められる。したがって、復興庁のトップには、既存のパラダイムにとらわれることなく、関東大震災時に復興院を指揮した後藤新平に匹敵するレベルの人物を思い切って起用すべきである。

 

加えて、被災地域を「復興特区」に指定し、既存の経済規制の適用を一定期間停止し、復興庁の指示・監督権限下で大胆な地域再生をはかる必要がある。具体的には浸水した土地の転用にともなう都市計画法や農地法などの規制緩和、地場産業の再生、企業立地のための税法上の優遇、自治体の起債制限緩和といったことがあげられる。さらには用途が自由な蕫特区ファンド﨟を育成し、住民の声やニーズをダイレクトに反映できる自治システムを構築するということも。そうなれば被災地以外からの積極的な投資、再生プロジェクトへの参画もあるのではないか。

 

復興庁の政策実行にあたっては、当該自治体で描いた復興マスタープランを基本仕様とし、建設会社や重電会社、ITベンダー、病院等からなる複数のコンソーシアムを結成させ、それらに技術提案コンペティションを実施し、「これは」と思う、住民が納得する提案を引き出す必要がある。

 

復興のための財政措置であるが、安易に消費税率アップなどに頼るべきではない。これ以上消費を冷やしてはならない。公私が協力して復興ファンドをつくるとか、前述した無記名・無利息の復興債(5年債、10年債)を発行するとか、自由裁量のある債権を発行できるようにするとか、建物はPFI方式で建てるとか、まだまだ検討すべき策があるはずだ。

 

なお、三陸沿岸の再生目標としては、当然「地震・津波に耐え得る都市づくり、漁業・農業基盤の再整備と効率化・安全確保、再生可能エネルギー利用環境の整備」などにつきる。

 

阪神・淡路大震災との違いは被災地が農地であったり、漁港であったりと、いずれも第一次産業地帯で仕事の場が生活の場であったことだ。それが深刻な被害をもたらし、復旧、復興にあたっても、こういった点を配慮した施策、グランドデザインが要求されてくるのではないか。政府にはこれらの実現に向けて 蕫総力戦﨟で立ち向かってほしいものである。

 

地震に翻弄される日本列島

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日本列島の地震が一向に収まらない。『AERA』によれば、今、地震学者が警告するのは「アウターライズ地震」と呼ばれるタイプの地震だそうだ。3月11日の地震は、日本列島の東半分が乗っている北米プレートに太平洋プレートが潜り込む境目で発生したものだ。この潜り込みの過程で、太平洋プレートの曲がり込む「背」に相当する部位に発生した「ひび割れ」がアウターライズだ。日本の邦訳では「海溝外縁隆起帯」という。3000名の死者・不明者を出した1933年の昭和三陸地震がアウターライズだった。この型の地震の危険性は、震度が浅いため津波が発生しやすいという。

 

3月12日未明には長野県北部を震源とする強い地震がそれぞれ発生した(いずれも最大で震度6強を観測)。これらの地震は内陸の活断層における大陸プレート内地震であり、気象庁は「太平洋沖での地震と直接関係はないが、地殻変動などにより誘発された可能性は否定できない」と述べ、今後も震度6前後の余震が連続して起こる可能性があると注意を呼びかけた。

 

そんななか「日本の地震研究を見直すときがきた」と提言する研究者が現れた。東京大学のロバート・ゲラー教授は、東日本大震災の発生を受けて、長年にわたる日本政府の地震予知政策に異論を唱える、衝撃的ともいえる論文を発表した。

 

それは過去30年間、日本で大きな被害を出した地震は、政府の予測と違った場所で起きているというものだ。そもそもいつ、どこでどの程度の規模の地震が起きるかなど予測できるはずがない―。ゲラー教授は鋭く指摘する、30年以上起きない「東海地震」はミスリードだという。ゲラー教授の論文は2011年4月13日、英国の権威ある科学誌『ネイチャー』電子版に掲載された。冒頭で「日本政府は、地震の発生を確実に予測することは不可能だと国民に対して認めるべきだ」「誤解を招く『東海地震』という用語の使用をやめること」「1978年に制定された大規模地震対策特別措置法の廃止」の3点を要旨に掲げている。

 

この地震もまた、蕫想定外﨟の地震だった。3月12日3時59分頃、長野県・新潟県境で発生した直下型地震。M6・7(暫定)につづいて、M5以上の2回の余震が相次いで発生した。東日本大震災の翌日に起きたという事実以外には「そのメカニズムが解明されておらず、何が原因かわからない」そうだ。

 

この地震で長野県秋山地区を除く栄村全域(804世帯2043人)に避難指示。一時、約1700名余が避難、死亡者はナシだった。けが人は新潟県内が31名、長野県内が15名、ただし軽傷だった。雪崩により家屋が損壊し、秋山地区(秋山郷)では道路寸断により約300名が一時孤立した。村内外を結ぶ道路は雪や土砂でふさがれ、小滝集落の住民は孤立し、ヘリコプターで避難所へ移送された。

 

栄村は「豪雪の村」として知られている。自然の豊かさと多彩な暮らしの営みが評価されて、「にほんの里100選」にも選ばれた美しい村。しかし、震災による雪崩や土石流で山々が崩れ落ち、ガレキが地面を覆い、一瞬にして様相が変わってしまった。家屋は51棟が全半壊、JR飯山線はレールが宙吊りになり、県道の路肩50神ほどが崩落。多くの村民の暮らしを支える田んぼには亀裂が入り、水路が山ごと崩壊するなどの被害で、今年の作付けも危ぶまれている。

 

にもかかわらず、東日本大震災とそれにつづく福島第一原発事故の影響で、栄村の被害状況は十分に全国に伝わっているとはいい難い。栄村への直接の義援金はわずかだ。村人たちにとって、今一番不安な問題は住宅だ。約2300人の村民の平均年齢は56歳。年金生活の高齢者は、家を直す資金を借りることは難しい。仮に家が直せたとしても、主な生業である農業が復興できなければ、どんなに村が好きでも住みつづけられる保証はない。

 

 

先人の知恵が住民の生命を救った

 

ところが、この大震災にあっても、まったく被害ナシという村もあった。先人が信念を込めて造った水門が効果を発揮した。岩手県普代村に設けた防潮水門などが東日本大震災でも効果を発揮したのだ。おかげで行方不明者はひとり、死亡者はゼロだった。住宅への浸水被害も軽微ですんだ。

 

1896年の明治三陸地震で1000人以上の死者や行方不明者を出した経験から、村は津波から住民を守る防壁の設置を検討、このうち普代水門は84年に完成した。高さ15・5神、幅205神のコンクリート製の水門である。建設費は35億6000万円だった。建設にあたって、集落の集団移転の検討や15・5神は高すぎるといった非難もあったが、当時の和村幸得村長はその高さを譲らなかったそうだ。「明治に15神の波が来た」という言い伝えが、村長の頭から離れなかったからだという。

 

「津波太郎」との異名もある岩手県宮古市田老地区には、住民が「万里の長城」と呼ぶ高さ10神、最大幅25神、総延長2・4礰神の日本一の防潮堤があった。

 

『週刊朝日』5月6日号で吉岡忍氏が、この巨大堤防が役に立ったのかを現地取材し検証している。結論だけを引用するが、「大堤防はやはり役に立った」のである。明治三陸大津波、昭和三陸大津波で最悪の被災地となった田老地区では、当時の関口松太郎村長がこの大堤防を築き始めた。これを支援したのが岩手県知事であり、その知事は若い頃、後藤新平の薫陶を受けたという。先人の知恵がこの震災でも生きたのである。

 

岩手県釜石市では、市内11の小中学生のほぼ全員が津波の難を逃れた。多くの人たちは、これを「奇跡」と呼ぶ。しかし、そうではない。教育で子どもたちが身につけた対応力が「想定外」を乗り越えさせた。

 

三陸地方には「津波てんでんこ」という昔話が伝えられている。地震があったら、家族のことさえ気にせず、てんでばらばらに、自分の命を守るためにひとりですぐに避難し、一家全滅・共倒れを防げという教訓である。その教訓が生きたのだ。

 

宮古市にある「大津波記念碑」にはこんな碑文があった。

 

高き住居は 児孫へ和楽 想え災禍の大津波 此処より下に 家を建てるな 明治廿九年にも 昭和八年にも 津波は此処まで来て 部落は全滅し 存者僅かに二人 後に余人のみ幾年 経るとも要人何従―と。

 

また、陸前高田市にある「津波記念碑」には、
一 不時の津波に 不断の用意
一 地震の後 どんと鳴ったら津波と思え
一 地震の後 潮が退いたら警鐘打て
一 大津波三四十年後に又来る
一 津波が来たら直ぐ逃げろ
一 金品よりも生命―とあった。


実に先人が心を込めて言い残した教訓である。われわれは先人の遺言をシッカリと受け止めていただろうか。

 

経産省が震災のサプライチェーンへの影響を緊急調査

 

3月の自動車生産台数は38万7567台となり、前年同月比にして57・5精のダウンとなった。一方、アジアでは132万台が生産され9精増となった。このままの状態で進行していけば、たとえばトヨタは、マレーシアの工場では30精にまで減産せざるを得ないという。なぜならば、部品の現地調達がスムーズにいかないからだ。部品製造の現地化がすすんだはずだったが、実は素材メーカーは日本だったのだ。トヨタ系の話ではないが、塗料なども福島産というのがあって、ニューヨークでの生産に支障をきたしているという話もあるという。

 

まさにこの現象こそが、日本の誇るサプライチェーン(部品供給ルート)の結果だ。問題はなかったのか、早急に検証してみるべきではないだろうか。ジャスト・イン・タイム方式がアダになったのか!? むしろ在庫を十分に確保し、混乱しないようなオペレーションに変えるべきだという見直し論も浮上している。

 

さて、東北がサプライチェーンの一角を占めていたということをご存知だろうか。そして東北がハイテク産業の集積地になっていたことをご存知だろうか。そのことを震災後の報道で初めて知った人も多いのではなかろうか。東北地方の工場立地や出荷額は90年代半ば以降、仙台を中心に拡大してきた。とりわけ伸びているのは半導体、電機、自動車部品関連といったいわゆるハイテク産業だ。

 

その東北地方の工場が操業を停止したのだ。たちまち世界中のモノづくりに影響が。部品や素材の供給を受けている海外メーカーの米国生産拠点まで停止してしまうという状況になった。余裕を持った生産体制を組んでおくべきだったとの指摘もある。

 

経済産業省は4月26日、東日本大震災後の産業実態緊急調査を行い「サプライチェーンへの影響調査」(調査期間は4月8日から4月15日までで、対象企業は80社。製造業55社、小売・サービス業25社)の結果を発表した。この調査は東日本大震災を要因とする製品・部材等の供給制約によって生産の停滞や自粛ムードが広がり、それが消費にどのように影響したかについて、緊急調査したものだ。

 

調査結果によると、製造業では被災地の生産拠点の約6割強が復旧済み。夏までに残り3割弱が復旧見込み。自社のサプライチェーンへの影響では、素材業種で6割強、加工業種では4割が1週間以内に調達先の被災状況、部材調達の可否等の情報を把握していた。

 

実際に調達先で被災したのは素材業種で企業の9割、加工業種で企業の8割に達した。また「調達先の調達先」が被災したのも加工業種で企業の9割となっている。さらに、計画停電の影響を受けたのは加工業種で企業の5割となっている。

 

いっぽう、代替調達先を確保したのが加工業種で8割、素材業種で6割強だった。しかし、代替調達先が見つからない企業が加工業種で5割、素材業種で1割もあったという。

 

「原材料、部品・部材」の十分な調達量を確保できるのはいつかという問いには、素材業種では調達済み8精「7月までに」を合わせると54精、「10月までに」を合わせると85精になった。加工業種では調達済み6精、「7月までに」を合わせると29精、「10月までに」を合わせると71精だった。

 

さて、小売・サービス業の震災後の業況はどうかといえば、業種・業態により明暗が分かれる結果に。食品・日用品、災害用品等を扱う企業はプラスに、それ以外の消費関連はマイナスだった。売上や客数の減少の主因として「消費者の自粛の広がり」をあげた企業が8割強、企業側も7割がイベントを中止した。

 

もちろん、産業界をあげてサプライチェーンの復旧に向けた取り組みがなされている。たとえばエレクトロニクス関連産業では、震災により材料・部品の工場が被害を受けたが、すでに薄型テレビ、携帯電話、スマートフォン、リチウムイオン電池等の生産には影響がなくなってきているという。

 

航空機関連産業では、震災直後は一時生産が縮小・停止していた工場もあるが、現在は復旧し、5月、6月には生産も本格化する見込み。

 

自動車関連産業では、震災直後の自動車生産は全国で縮小・停止していたが、現在は生産可能な車種から、操業スピードを調整しつつ再開する動きがでてきている。日本のモノづくり復活、喜ばしいことではないか。

 

原発問題でエネルギー革命が実現!?

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原発トラブルであらためて自然(クリーン)エネルギーや代替エネルギーの産業化だけでなく、家庭レベルでのエネルギーをいかに調達するか、ということが議論されはじめている。が、蓄電(バッテリー)の問題と余った電力の売買価格や条件についての解決がなされていない。前者は日進月歩の科学の世界であり、後者は経済、政治マターだからだ。

 

そして事業レベルでは、スマートグリッドといわれる再生可能エネルギー(太陽、風力、地熱電力など)を使って「必要な量に合わせて電力を使う」といったシステム開発についての検討がなされている。いずれも次代の蕫エネルギー思想﨟にかかわるもので、国民すべての課題として答えを出していかなければならない。

 

折りしもソフトバンクの孫正義社長が被災者に100億円の寄附を申し出たり、自然エネルギー財団を設立すると宣言した。また、脱原発で知られる広瀬隆氏は、原発の2倍の発電効率を誇るガスタービンと蒸気タービンとを組み合わせてガスコンバインドサイクル発電を提唱している。 と同時に風力も太陽光も、そして地熱やバイオマスといったエネルギーを使っても、それぞれに欠点があって「日本の産業を支えるだけの力はない」(『FLASH』5月10・17日号)とする論調も出てきた。どれがホントウなのか国民にはサッパリわからない。わかっていることはただひとつ、「レベル7」の原発危機があるということだ。というわけで、チョットだけ参考にしてほしい自然エネルギーをリポートしてみたい。

 

自然エネルギー後進国の日本

 

日本の自然エネルギーの利用率は7~8年前までは、世界のトップクラスだった。ところが、この間にドイツは脱原発を掲げ、原発7基分を自然エネルギーでまかなうようになり、自然エネルギー大国に成長した。いっぽう、わが国の自然エネルギー稼働率は、全エネルギー量の3精程度に落ち込み、太陽光にいたってはわずかに0・26精という状況に。

 

ではなぜ、こういう事態になったのか。それは設置のための初期費用が高くつくということ、余剰電力の買い取りシステム、そして初期投資に比べ売電料金が安いことなどがあげられる。

 

これらがネックとなり、なかなか普及しなかった。とくに初期費用についてはネックだった。しかし、宮崎、沖縄と並んで日照時間の長い飯田市(長野県)はこの太陽光発電にチャレンジした。太陽光は風光明媚な飯田市にとっては特産品なのだ。思いついたのが初期費用200万円をゼロ円にするという販売方法だった。その仕組みは次の通り。7年前に市が1・6億円、市民が一口10万円、470名の市民が2億150万円を出資して運営会社を設立。おかげで利用者は9年間、月1万9800円を月賦で支払いながら売電もできるようになったのだ。

 

なぜ、この仕組みができたのか。それは、集めたファンドで発電機メーカーから発電システムを格安で一括購入できたからだ。配当もあるというからビックリだ。年2精~4・5精で、設置者からは「銀行利子よりも若干いい。なによりも自分の金が何に使われているかがわかる、自分の電気という感じがいい」と好評だそうだ。

 

人口10万8000人、約3万8000世帯の内、すでに1500戸で設置済み。この原発事故を機会に、さらに太陽光発電は加速するに違いない。10年後には太陽光発電は蕫200兆円産業﨟ともいわれており、この飯田市が「太陽エネルギーのまち」として売り出し、地域ブランドを確立すれば関連産業も起こり、年間5億円ともいわれる市内からのマネー流出が内需や雇用にまわっていくのではないか。専門家によれば「日本は日照時間もそれなりで、どの地域でも太陽光発電には向いている」そうだ。この際、屋根の上や屋上に取り付けてみるというのはどうだろうか。また、「日本は長い海岸線があり、海風による風力発電もOK」だそうだ。「地域経済の活性化」「自然エネルギーでコミュニティビジネス」という視点からもこの飯田市の例は学ぶことが多いのではないか。

 

いっぽう、各地で蕫自然エネルギー特需﨟が巻き起こっているという。札幌の自然エネルギー機器専門店㈱「いころ」によれば、震災後に関東圏からソーラーやバッテリー、風力発電機や水力発電機などの問合せが急増しているという。たとえば、家庭用の風力発電機は定格風力毎秒10神、72竧型で15万円、600竧型で21万円という。意外に安く好評だそうだ。

 

また、英国製の小型の水力発電機「アクエア」も人気だとか。チョットした小川や水路などでも利用可能なのがウケている。設置作業や撤去作業も手軽で低コストだ。流速0・9m/sから発電を開始し、流速3・5m/sで定格出力100竧を出力する。価格は33万5000円。

 

なるほど、このクラスの価格ならお手軽という感じ、さっそくトライしてみてはどうか。今夏はどうやら計画停電でエアコンのフル稼働とはいかないようだ。この際、自然エネルギーの力を借りるか、それとも蕫クールビズ﨟否、蕫クールスポット﨟で冷夏を味わってみますか。

 

「ガレキ」がエネルギーに変わる

 

さて林野庁は4月19日、東日本大震災の被災地にある大量のガレキをバイオマス(生物資源)発電などで有効活用する事業を実施する方針を固めた。2011年度第1次補正予算に3億円程度を盛り込む方向で調整している。推定によるとこの大震災でのガレキの量は、家屋によるものだけで2500万禔もあり、その約8割が木材とみられている。木材をバイオマスに使うには、それを5礼以下の木くずにする必要がある。市町村や業者が被災地で利用する場合には、移動式の木材粉砕機を購入する際は2分の1を補助する。粉砕機の価格は1時間当たりの処理能力で異なるが、数千万円はするので、この助成は福音だ。

 

仮に宮城県を例にとると、ガレキの量は1500万~1800万禔、1年間に排出される一般廃棄物の23年分に相当する。このガレキから500万禔の木質が採れる。これを火力発電に使ったらどうなるか。1万礰竧級の小型火力発電所なら5基(建設費は1基40億円ほど)は可能だとか。これで年間計60万禔の廃材を燃やせるので、津波廃材を数年で全部処分できることになる。生み出した電力は当然、電力会社に売ることになる。

 

ことのついでにこの廃材火力発電所で、戦後復興で多量に植樹された杉やヒノキ間伐や林地残材(農水省によれば、年間370万禔発生する)を焼却処理することにすれば、発電と合わせて花粉症の抑制効果も期待でき、一石二鳥ではないか。

 

脱発電で期待される「コンバインドサイクル発電」

 

LNG(液化天然ガス)を燃料に使うコンバインドサイクル発電所では、ガスタービンを回した熱で水を蒸気に変え、さらに蒸気タービンを回転させるという二重の発電方法を組み合わせた形になっている。最初に圧縮空気のなかで燃料(ガス)を燃やしてガスタービンで発電し、タービンを回し終えた排ガスの余熱を使って蒸気タービンによる発電を行うことで、熱を有効利用できる。同じ量の燃料からより多くの電気をつくることができ、結果的にCo2排出量なども抑えられる。化石燃料のなかでは比較的「クリーンな」エネルギーといえる。

 

「改良型コンバインドサイクル発電」(ACC)の燃焼温度は1300℃で、発電効率はおよそ50㌫。1950年代の火力発電に比べると、なんと約2~3倍という高水準に達している。さらに、近年各地に導入されつつある装置は、燃焼温度を1500℃までアップさせた「MACC」と呼ばれるタイプ。発電効率は59㌫まで高まり、もちろん世界最高レベルだ。脱原発を構想するする際、大いにその効果が期待できそうな発電システムといえよう。

 

被災地を応援して風評被害を抑える!!

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事実の一部のみを強調する報道、地名の不適切な使い方などによって、消費者の判断を惑わすケースなど、これが風評被害である。近年はさらにインターネットやツイッターなどの普及によって、風評は瞬時にして海外へ拡大することも。ときにはインターネットの掲示板やチャットを使って株価を操作するといったことも。

では、この東日本大震災や福島原発事故ではどうか。すでにコンテナ船の入港拒否を宣言する中国船をはじめ東京港への入港拒否した外国船は34件にものぼる。日本の工業製品や食品に非被爆証明書を要求する事案も急増している。これを機に自国産業を守りたいとして輸入制限をする国もあるという。風評被害はすでに地球規模に広がっているのだ。

ところが、検査費用に6万円~10万円程度かかるという。そこで、政府はその検査証明を発行することにした。大企業は半分、中小企業は10分の1を負担すれば発行してくれる。

また、外国人観光客も3月の前年同月比は98精減。もちろん、国内の温泉地、旅館、ホテル、リゾート地は軒並みキャンセルが相次ぎ、宿泊客ゼロという日もあるという。石川県輪島市の人気民宿「漁火」もキャンセルで宿泊客ゼロという日があったそうだ。「まさか、震災と原発問題でこんなことになるなんて」と嘆いていた。

では、福島県内の旅館・ホテルはどのような状況にあるのか。いわき湯本温泉旅館協同組合の小井戸英典理事長(旅館こいと代表取締役)によると「このあたりは海辺(小名浜)から15礰ほど離れているので、津波による被害はなく、地震で倒壊した建物もなかった。しかし、福島第一原発から約50礰の距離にあることから、原発事故以降のお客はすべてキャンセルになってしまった」と。現在は東電関係者や近隣町村(広野町など)の避難民を受け入れることで、営業をつづけているという。

もちろん、それについては「まちに放射性物質が入ってくるのではないか」といった反対意見もあった。そこで、旅館組合は東電に対して「作業者の身体に放射性物質が付着していないかをチェックした後に、専用の送迎バスで宿泊施設まで送り届けることを条件として提示した」という。

こうした苦労の末、現在は28軒の旅館のうち24軒が営業を再開するまでに。だが、通常営業とは異なり豪華な食事や宴席を設けるわけにはいかないため、ほとんどの旅館が「従業員をカットし、最低限の人員で営業している」そうだ。

また「原発問題が解決するまで、何とかしてまちを存続させたい」という思いから、組合では周辺ガイドやマップを作成し、宿泊客に旅館の外でも食事をとってほしいと呼びかけている。さらに、宿で提供する食材については「地産地消を推進し、風評被害に悩む地元農家をバックアップしていきたい」としている。

神戸のある輸出企業も大きな打撃を受けている。風評で輸出がストップとなったのだ。あるとき、製造工場とその所在地、製造日を教えてほしいという旨の問い合わせがありそれに応えたところ、原発被災地に隣接しているというだけでキャンセルになったそうだ。「日本のイメージが悪くなっているのではないか」と肩を落としていた。

玄葉国家戦略担当大臣も記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所の事故に関連して、「福島の人に対する風評被害が発生している」と指摘。福島県民に対する差別や風評被害が二度と起きないようにするため、関係機関に指導してほしい旨を閣僚懇談会で要請したという。

報道によれば玄葉大臣は福島県出身ということもあってか、「大変、残念ながら、福島の人がほかの県のホテルや旅館を予約しようとすると、断られたり、避難している子どもが『放射能がついている』といわれたり、人に対する風評被害が発生している」と切々と訴えたそうだ。

そのほか「飲食店で福島ナンバーのクルマでの入店を拒否された」「首都圏の専門学校では、福島出身者に自宅待機を命じている」といった報道記事もあった。このため、佐藤雄平福島県知事は19日の災害対策本部会議で「政府で風評被害防止の対応をしてほしい」と求めた。

ところが、こうして福島県の農家や住民たちが原発事故の影響で風評被害に悩むいっぽうで、全国の消費者がインターネットを通じ福島産の農産物を直接購入する動きが広がっている。JA全農福島のネット販売は、米や野菜、農産物加工品など約20品目すべてが例年以上の注文を受け、なかには品切れになった商品もあるという。「市場を介した小売りは値崩れする傾向にあるが、価格に変化がないネット販売は好調だ」だそうだ。

この風評被害に日本経団連も乗り出した。福島、茨城両県産で出荷制限がかかっていない野菜の買い取りを会員企業に要請。社員食堂で使ってもらおうというものだ。県や農業団体と調整してキャベツやキュウリなどの大量仕入れルートを確保し、社食の食材や社員向けの直売会を開くとしている。安全性のアピールにも一役買う。

東京電力の社員たちも、NPO法人ふるさと往来クラブの「がんばろう福島応援隊」のメンバーとなり、この4月28日は、同社千葉本社にて福島県会津産やいわき産のいちごやトマトといった生産食品や柚子、ゼンマイの醤油漬けといった特産品を袋詰めにして社員販売を実施した。

応援隊を組織した同クラブの花澤治子事務局長によれば「こうした持ち込み販売だけでなく、今後は東電さんの社員食堂でも毎日、食材として使ってもらうつもりです」と。隊員の東電マンも「そのつもりで全社一丸となって取り組んでいきたい」と話していた。

こうした動きとは別に、原発事故による農畜産物の風評被害の損害賠償を求める動きも。茨城、栃木のJA幹部らが28日、東京電力本店を訪れ、賠償請求書を提出した。請求額は2県で30億円を超えるが、さらに増える見通し。東電側は「なるべく早く支払えるように努力する」と答えたという。茨城県の請求額は約18億4600万円。3月の損害額のうち、野菜などの市場価格下落による損害分約14億4740万円と、政府の出荷停止指示を受けた原乳の損害分約3億9860万円を合わせた額だ。同じく出荷停止指示を受け、一部を除き解除されたホウレンソウとパセリについては被害額を算定中で、今後追加で請求する見通しだという。さらに栃木県も12億149万円を請求した。

 

水産物の放射能汚染はどうなるのか

「結論からいうと心配には及ばない。なぜなら、海はとにかく広く、希釈効果が高いからだ」という専門家の意見もある。公表されている海での放射能の数値も、海表面に限ったデータである可能性もあり、海表面だけを見れば高い数値になることもあり得る。福島原発の排水口付近の海水はさすがに汚染されているかも知れないが、茨城など原発からある程度離れたところで獲れた水産物はまったく問題ない。

そもそも、米ソが核実験をやっていた時代は、年間通してメガベクレルレベルでの放射性物質が降り注いでいたが、それを気にせず魚介類を食べていた。また、広島・長崎での原爆の犠牲者の9割は、被曝によるものではなく熱線が死亡の原因だった。水産物への汚染が長期化するといった懸念に関しては、チェルノブイリの場合ではマイワシ、サバ類で一時的に通常の5倍の数値の放射能が検出されたことがあったが1年と続かなかった。

風評被害に関しては、これはもはや政府や東電が正しいデータをマスコミに公表していくしかない。それが福島県民を風評から守る最善の策といえるかもしれない。

 

そもそも風評とはどういうものか

風評とは新小辞林(三省堂)によれば「世間のうわさ。風説」である。「コーポレート・レピュテーション」(チャールズ・フォンブラン、セス・ワン・リール 東洋経済新報社)によれば、優れた企業の評判・風評(レピュテーション)を構築するための重要な要素には、次の5つがあるという。①「顕示性」(Visible):注目度の高い企業であれ ②「独自性」(Distinctive):違いを際立たせよ ③「真実性」(Authentic):誠実に自らを提示せよ ④「透明性」(Transparent):適切に情報開示せよ ⑤「一貫性」(Consistent):「対話」を確立せよ―と。が、悪意を持って使えば、犯罪にもなる。善意であれば人気が上がり、話題になり事態はプラスに。

 

税制特例例措置を活用しやすい環境づくりが急務

 

いずれにせよ、農家、漁師にかぎらず、借金だけが残ったという経営者、工場主も多いはず。借入金、リース代、住宅ローンといった債権類を「不良債権の買い取り」として一括処理はできないものか。ローンの二重苦とはあまりにもひどい話ではないか。政府には早急にこのあたりのとりまとめをしてもらいたい。

また、罹災証明をもらうにしても貸事務所や貸工場で営業していた企業はオーナーごと流されて、証明する者がいない。しかも、窓口業務の行政職員もいない。この際、手続きを簡素化して、早急に事業再開をはかるべきではないか。場合によってはプロの会計人(公認会計士や税理士)や弁護士、司法書士、行政書士に窓口になってもらい、証明書類や減免手続きのボランティアをお願いしてみたらどうか。たとえば企業再開にあたっては、雇用調整助成金を使いたいということもあるはず。給料の80㌫を補填してくれるのだ。こういった場合の助成金の申請手続きなどを税理士や行政書士がその立場を生かして、役割をはたしてもらいたいものだ。

なお、このたびの震災や原発問題を巡って、激甚災害法や原子力損害賠償法などでは対応できない場合を想定し、「農林漁業・農山漁村復興再生特別措置法」を成立させようという動きも。この法案は被災者向けに基金をつくり、経営再開資金を提供しようというものだ。

 

税制特例例措置のポイント

●住宅・家財の被害

・損失額に応じて所得税・住民税を軽減

・住めなくなった住宅も住宅ローン減税を継続

・代わりの住宅や土地を取得する際の登録免許税を免税、不動産取得税は非課税

・津波被害が大きい地域の土地・家屋の固定資産税・都市計画税を免除

・相続税・贈与税額の算出は震災後の評価で行う

●自動車・船舶

・車両を失った人に納付済みの自動車重量税を還付(車検の残り期間分)

・自動車買い替えの際の取得税を非課税、重量税は免税

・船舶や航空機を再建造する際の登録免許税を免税

●被災起業

・損失額に応じて納付済みの法人税を還付

・地方法人税を減免

●寄付金・その他

・所得税の寄付金控除の限度枠を年間所得の40㌫から80㌫に

・政府が指定したNPOに寄付した場合は税金を控除

 

※記事中のデータは4月30日までのものです

最終更新 2011年 5月 24日(火曜日) 14:07