地域資源を使って新産業創出 湧水にスイーツ、ウォータースポーツまで 滋賀県の「水ビジネス」 印刷
2013年 8月 28日(水曜日) 13:03

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地蔵川の風景

     豊富な水資源を持つといわれる日本。実際、世界では 安全な水を飲めない人口が8人に1人いるといわれるな か、日本ではすべての人たちが毎日、安全・安心な水を飲 んでいる。

今後、世界的な人口増にともない、水はますます重要 な資源になっていく。そうしたなかで日本はただ漠然と 水を消費しつづけるだけでいいのだろうか。もっとこの 貴重な資源を活用し、ビジネスを生み出すことはでき ないのだろうか。そこで、今号ではその糸口を見出すた めに、大小合わせて200以上の湧水を持つ醒 さめがい 井宿な どを有する「水の国・滋賀県」にスポットを当て、水を生 かしたビジネスをレポートしてみたい。

水の郷「醒さ めがい井 宿」の水ビジネス

滋賀県米原市の醒井宿は清流「地蔵川」に沿って形成された中山道61番目の宿場町で、古来より水の郷として親しまれてきた。

清流が生み出す生態系が地域資源として注目を集めている。 

滋賀県米原市の醒井宿は清流「地蔵川」に沿って形成された中山道61番目の宿場町で、古来より水の郷として親しまれてきた。清流が生み出す生態系が地域資源として注目を集めている。

古代より交通の要所として機能してきた醒井。江戸時代の頃には地蔵川沿いに醒井宿が形成され、天保14年(1843年)の『中山道宿村大概帳』によれば、宿場内に138軒の建物が軒を連ね、539人が生活していたという。

当時ほどの賑わいはなくなったものの、東西876㍍に伸びた宿場町には1軒につき1カ所の「かわと」(川に通じる石段)が残されており、野菜を冷やしたり、水を汲んだりするのに使われているという。

醒井宿の最大の魅力は何といっても湧水だ。「西行水」「十王水」「居醒の清水」などの湧水が地蔵川に注いでいるのだ。とくに08年6月に「平成の名水百選」に選ばれた居醒の清水にはユニークな物語がある。それは日やまと本武た ける尊が伊吹山の大蛇との戦いで毒を受けた後、この湧水で患部を洗い流したところ、その傷を癒すことができたというものだ。そのため、居醒の清水の近くには日本武尊の像と日本武尊が腰をかけたといわれる「腰懸石」、鞍をかけたといわれる「鞍懸石」もあり、古代の歴史ロマンに思いを馳せることができる。

地蔵川の美しさは「梅ば いかも花藻」という花にもあらわれている。これは14℃前後の清水にしか生育しないとされる水中花で、白く小さな梅のような花を咲かせる。開花のピークは7月中旬から8月下旬にかけてで、この時期には地蔵川の至るところで梅花藻の花が咲き誇り、それを見るために多くの観光客が訪れる。まさに地域資源のひとつになっている梅花藻だが、最近では梅花藻に関連した商品も生み出されている。醒井宿名物の「醒井餅」(のし餅を薄く切って焼いたかき餅)を販売している丁子屋製菓では、梅花藻のパウダーを練りこんだ「梅花藻ソフトクリーム」(300円)を販売中。藻の粉が入ったソフトクリームと聞くと、少しギョッとしてしまうかもしれないが、実際に口にしてみると抹茶ソフトクリームのようなスッキリとした風味を味わうことができる。実際、お店の人に聞いてみると「売り上げは上々だ」とか。今後、さらなる梅花藻パウダーの活用にも期待したいところだ。

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居醒の清水の湧出ポイント

梅花藻以外にも地蔵川には清流ならではの地域資源がある。それが絶滅危惧種に指定されている淡水魚の「ハリヨ」だ。体長は4〜6㌢で、20℃を超える環境では生息できないうえに、湧水地帯でしか生息できないため、現在は岐阜・三重・滋賀の三県だけでしか確認されていないという。米原市商工会と「地蔵川とハリヨを守る会」では、地蔵川沿いの旧醒井問屋場でハリヨを水槽で飼育する事業を行っているので、そこに足を伸ばせば愛らしいハリヨの姿を見ることができる。

JR 醒ヶ井駅に隣接する醒井水の宿駅えきでも清流を生かしたユニークな取り組みがなされている。そもそも、この施設内ではすべての水道から湧水が出るようになっているのだが、ここではその水を使った豆腐作り、うどん作り、水ようかん作り、みそようかん作りなどを体験することができるのだ。また、施設内にはランチタイムの3時間(11時〜14時)のみ営業するレストラン「宿場料理 居醒」では、ランチバイキング(大人1380円)で、鱒のにぎり寿司や梅花藻入りのそば、名水豆腐など地元の食材を生かした料理を味わうことができる。調理スタッフは全員、地元の〝おふくろ〞さんたちだというから、まさに〝地の味〞を堪能できそうだ。

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醒井には中山道の石碑がある

清流へのこだわりが地域に「産業栽培」をもたらした。流域住民の知恵と不断の情熱によって、ふるさとおこしのビジネスモデルを掴み取ったのだ。日本の国土の47㌫、市町村の45㌫が過疎地といわれ、存続が危ぶまれる〝限界集落〞を抱えている。ここには水や食料、森林が豊富にあり、重要な役割をはたしている。しかし、この過疎地は極端な人口減でほとんど「産業栽培力」を失いかけている。アベノミクスの「成長の矢」もこうした過疎地には届きそうにない。そんな状況にあって、米原市の取り組みは先進例、成功例として全国に積極的に発信していくべきではないだろうか。

琵琶湖を生かしたウォーターレジャー

滋賀県といえば忘れてはならないのが、日本最大の面積67025平方㌔㍍)と貯水量(275立方㌔㍍〉を誇る琵琶湖だ。この広大で穏やかな湖の利点を生かし、近年はウォーターレジャーが盛んに行われている。

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サンライズカヤック

創業40周年、国際交流にも注力

琵琶湖比良山のふもと、水と緑にあふれる湖西・蓬ほうらい莱浜にある「BSC ウォータースポーツセンター」はヨット、カヤック、ウインドサーフィンなどのウォータースポーツのスクール。40年前に創業し、現在は「びわ湖自然体験学習」として小中学校から高校、大学生を対象とする多くのコースを用意している。また、マリーナ施設、テントを含む宿泊施設もある。年間来場者は学校の団体だけでも1万人以上。京都からはJR、車で約35分というアクセスの便利さも人気のひとつになっているという。

スクールのスタッフは井上良夫校長をはじめ7人程度だが、テンポラリースタッフ、大学生のインターンシップ、子どもリーダーなども参加するため、年間を通すと延べ数十人にもなる。チーフインストラクター、山本さち子さんは「一番重要視しているのは安全性です。自然が相手ですから、つねに天候や参加者のコンディションに留意しています。参加者にはかならずライフジャケットを装着していただきますから、泳力がそんなになくても大丈夫です」と話す。いまはまさにサマープランシーズンの真ッ最中。この夏一番人気のツアーは「サンライズカヤック&メロンパン作り」。夜明け前に浜辺に集合してカヤックで琵琶湖に漕ぎ出し、雄大な湖上の日の出を鑑賞する。その後、スクールに戻ってメロンパンを作るというユニークな内容で、小学生以上なら誰でも参加できる。前の晩はテントに泊まり、1泊2食付(夕食はバーベキュー)で参加費は1万800円から。「このツアーの影響か、このあたりではメロンパンがサンライズパンと呼ばれたりもしています」と山本さん。同ツアーは今年、滋賀県ならではの資源や素材を活かし、滋賀らしい価値観を県内外に伝える商品・サービスとして「ココクールマザーレイク・セレクション」にも認定されている。ちなみに、ヨット、ウインドサーフィン、カヤックの日帰り入門スクールが昼食付で参加費1人9450円とリーズナブルなのも嬉しい。

一方、BSC では琵琶湖でのウォータースポーツを通じた青少年国際交流も活発にすすめており、日本・中国・韓国の小学生が交流する「アジア国際子どもサマーキャンプ」やオーストラリア・アメリカの中高校生が参加するホームステイプログラムなどを行っている。大学生レベルでは中国の湖南師範大学、上海大学、大連科技学院と協定を結び、各大学の日本語学科の学生のサマーキャンプをはじめ青少年文化交流をすすめている。今年創立40周年を迎えたBSC は「環境保護とエコツーリズム」「国際感覚豊かな人材育成」を推進し、琵琶湖という地域資源を最大限に活用した〝非日常体験〞を提供している。

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ドラゴンボート体験。レースも可能

安全・安心環境でドラゴンボートを体験

アウトドアスポーツクラブ「オーパル」は、赤外線センサーなどのメーカーであるオプテックス㈱(滋賀県大津市)が、社員の福利厚生施設と一般向けの会員制アウトドアスポーツクラブを融合させて開設した施設。カヌー(カヤック)やヨット、ウインドサーフィン、ウェイクボードなど、琵琶湖のさまざまなウォータースポーツを体験できる。2000年頃からは小中学校、高校の修学・教育旅行、子供会、スポーツ少年団、大学ゼミ旅行などを対象に、年間を通して自然環境に関する体験学習の場を提供している。宿泊施設はないものの、アクセスは抜群。新名神高速道路ができてからは名古屋から1時間半のドライブで着くため、中京圏からの来場者が増加中だとか。年間来場者数は施設全体で約4万人にも上る。

カヌー、ウェイクボードなどのスクールをはじめ、ウォータースポーツ初心者を参加対象にしたメニューもある。なかでも人気を集めているのが「NWWA ウォーターボール®de 環境体験」。ビニールでできた球体(風船)のなかに入って、スタッフにカヌーで引っ張ってもらうことで沖に出ることができ、まるで琵琶湖の上をプカプカ浮いているかのような体験ができるという。所要時間は約90分〜120分、料金は大人4200円。スタッフが撮影した体験時の写真と湖畔で拾った貝殻や水草など自然の素材を使って記念ボードを作れるのも人気の理由になっている。「ウォーターボールでの浮遊感をぜひとも楽しんでください。真夏はチョット暑すぎるかもしれませんが、春、秋は涼しくて最高ですよ」と同社の山脇秀錬代表取締役はアドバイスする。

教育旅行では安全第一をモットーにしているうえに、オパール前の琵琶湖は波が穏やかで、海と違いクラゲやウニなどの毒性の生物がいないので、まさに安全・安心な環境でレジャーを楽しむことができる。また、オーパルは日本ドラゴンボート協会認定の練習場でもあり、ドラゴンボートの普及活動にも力を入れている。ドラゴンボートは中国に由来する幅が狭くて細長い手漕ぎ船で、日本ではペーロンとも呼ばれる。この8月10日には「第23回びわこペーロン」が開かれ、大阪、滋賀、京都、愛知から39チームが参加した。ドラゴンボートの練習が常時できるのは琵琶湖ではオーパルのみ。ドラゴンボートは約20人で漕ぐうえに、船の全長が16㍍にもおよぶので、オーパルのように保管場所も兼ねている施設が少ないのだ。ドラゴンボートも体験することができるので、一度、トライしてみてはどうだろうか。

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NWWAウォーターボール®で琵琶湖を体感

続きは月刊コロンブス9月号でお読みください。

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最終更新 2013年 8月 28日(水曜日) 15:35